ATK会報2017「FMアレクサンダーの知られざる脚本」
※アレクサンダーテクニーク教師会2017年会報に寄稿したコラム
池田智紀
FMアレクサンダーが俳優だったことは多くの方が知っていますが、彼が脚本を書いていたことはご存知でしょうか。ロンドンに渡って数年後の1908年、F. Matthias AlexanderとEvelyn Gloverは一緒に「Question of Time」を書きました。これは自伝や伝記、第一世代の残した文書では語られておらず、現代のAT教師の文書でも触れられたことはないでしょう。
オランダ王国の歴史家によって最初に発見されたこの作品は、草稿のみが残っており大英図書館で読めます。しかし、コレクションの一作品のためオンラインカタログでは見つけることができません。発見した歴史家は一度も公演されることはなかったと述べていましたが、当時の新聞を調べると、一度だけ公演されたことを報じる新聞記事を発見しました。
この作品は20世紀初頭に流行った客間喜劇の一つです。その構成は約15分の一幕のみで、当時有名な俳優が出演する劇の前座でおこなわれたものでした。そのため次の劇を楽しみにしていた観客の誰もが気に留めることはなかったようです。
共著者であるGloverの最初の作品にもかかわらず作品リストにもほとんどの場合、この作品は含まれておらず、実際に二作目のChristopher St Johnと共作した「A Chat With Mrs. Chicky」から名前が売れ始めました。ちなみに『自己の使い方』の謝辞で述べられている「E. Glover」は別人(Elizabeth Glover)で、Evelyn Gloverは当時FMのガールフレンドだったようです。Gloverには当時の婦人参政権キャンペーンに関わる作品が多数あります。
この作品はワークに関係しません。しかし俳優業から教師業に転換した彼の根底には演劇があることを我々に思い出させるものの一つでしょう。リトルスクールや教師養成コースのエピソードをみても彼の舞台に対する未練はうかがえます。世界のAT教師が知らないFMに関する資料は他にもあります。もしかしたら今後も発見されるかもしれませんが、公開されるのはずっと先のことでしょう。
Question of Time のあらすじ
夜の11時に人目を忍んで若い田舎の農夫が恋人のいる台所に侵入、そこに怒った父親の予期せぬ襲来、隠れようと愚かにも恋の病にかかった白鳥は祖父の時計の中へ、年老いた農夫(父親)がそこに登場、奔走する父とそこに来襲する母、それは時計が幽霊にとりつかれていると信じた結果だった・・・
滞在先シアトルにて。